柳也が絵を描いたり小説を書いたりゲームレビューしたり日常のことをぼやいたりしています。
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ミンサガの邪神兄弟。まだ邪神戦争始まって間もない頃のおはなし。
お題は「実験的お題の箱庭。」様よりお借りしました。
※流血、残酷描写注意
※擬人化注意
※別人注意
ご覧になる方は「続きを見る」よりどうぞ。
お題は「実験的お題の箱庭。」様よりお借りしました。
※流血、残酷描写注意
※擬人化注意
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ぱしゃん、と水風船を破裂させた様な音が耳に響く。其方に視線を向ければ丁度最後の獲物を駆り終えたらしき彼は血がべっとりと付いたままの大鎌を肩に担ぎ上げる。血溜まりに横たわる犠牲者達は頭こそ無いもののそれ以外の損傷は無く、ああ此れならば後で手駒にするのが楽そうだなと何処か他人事の様に思えた。
「サルーイン」
石造りの壁に低い声が響く。無言で片手を挙げそれに応えるが彼はそんな自分の無作法に怒った様子も無く、己が造り上げた赤い泉を踏みつけて近づいてくる。彼の纏っている白い法衣は返り血で斑に染まり、水気を孕んで足や身体に纏わり付いている。裾が床掃除出来る程に長い所為で、歩を進める度に床が蛞蝓の通った様な筋で汚れるのは些か滑稽に感じられたが、彼の視線が此方に向いている事に気付き内心では慌てながら真面目な表情を作り、
「終わったのか」
「ああ」
自分の問い掛けに実に簡潔な答えが返る。何の感慨も感情も含まれない平坦な声には答えず辺りを見渡すが残党は居ない。この光神の神殿の中で動く者は自分と彼だけとなった。他に在るのは血の海と其れに浮かぶ『人間だった』肉塊だけ。祭壇の上で静かな表情を浮かべ此方を見下ろしている白大理石の光神像は自身の信徒達の血で赤く染まり、瞳の部分に撥ねた血が垂れ落ちまるで血の涙を流しているようだ。
彼は自分のすぐ傍まで寄ってくると歩みを止め此方に顔を向ける。よく見れば自分と酷似している顔は蝋のように白く、夢遊病者の様に焦点の合わない瞳は自分の方こそ向いているけれど決して自分を見ている訳ではない。何を見ているのか定かではない、もしかしたら何も見えていないのではないかと疑いたくなる瞳を見ていると、まるで底の無い泉を覗き込んでいるかのような錯覚すら覚える。じっと見ているとその中に引き込まれてしまいそうで、自分と同じ色の瞳からほんの少し視線を外して話しかける。
「帰ろう、此処にはもう誰も居ない」
「わかった」
返る声。彼は此方から視線を外し出口へ向かう。己が刈り取った残骸達には目もくれず此方を振り向くことも無い。その背中に声を掛けることもせず、数歩遅れて自分は彼の後を付いて出口へと向かう。
戦っている間に外れてしまったのか、被っていたフードが下がり腰まである桔梗色の髪が揺れている。自分とよく似た、けれど自分より細く頼り無げな身体は果たして氷の城に辿り着くまで歩めるのだろうか。そんな事を考え馬鹿馬鹿しいと首を振って否定する。
初めて会った其の時から、自分は彼の事が恐ろしかった。
別に彼が何をした訳でもない。彼が兄だからと萎縮している訳でもない。ならば彼の力を恐れているのかと言えばそれも違う。確かに彼の力は強い。その何物をも切り裂く鎌の一閃や死者をも操る邪の術法には感心させられる。だが決して敵わないとは思わないし、力だけなら妹の闇の魔力の方がずっと強大だ。自分が恐ろしいと思うのは、彼の心が微塵も読めない事だ。
此の世に生まれ出て自我を獲得してから、そう長くは無いものの殆どの時を彼と妹と共に過ごしてきた。出遭った時から今日まで自分は彼がその顔に感情を浮かべた所を見たことが無い。喜びも怒りも哀しみも無いデスマスクと称するに相応しい顔を見る度に彼が何を考えているのか、何を感じているのか全く掴めず困惑する。其れは妹も同じ様で、彼と対話する度に何時も哀しげに伏せている美しい顔を困ったように歪めている。
邪神だから、と言うのは言い訳にすらならない。例えば自分には母なる女神より受け継いだ底の無い憎悪や何かを壊す度に感じられる恍惚感や愉悦が存在するし、嬉しければ笑い腹が立てば怒る。妹も感情の起伏こそそう多くは無いものの、見ている此方の方が胸を痛める程の悲哀に満ちた表情を常に浮かべ、極稀にだが微笑む事もある。だが彼はそれすら浮かべることの無い空ろな赤の双眸と地を這う唸りの様な声で自分達と接してきた。
否、無いのは感情だけではないのかもしれない。自分は彼が何かを望んだり主張をしたりといった行動を取った所を見た覚えが無い。思えば光神らに対して戦いを挑むと宣言した時も、妹は悲しげに目を伏せ「それが私達の宿命だものね」と自嘲めいた淋しげな笑みを口元に浮かべたのに対しこの男は「わかった」といっただけだった。もし自分が戦う事を選ばなかったら、或いはこの男だけが邪神として誕生していたら光神とは敵対せずにあっさりと光神の傘下に下るか若しくは命運尽きるまで何者とも関わらずにいたかも知れない、そう思わざるを得ない程にこの男には主体性や自主性と言うものが存在しなかった。
何者にも執着も嫌悪も関心も見せず、ただ流れのままに生きている彼の姿は感受性の強い自分からすれば意志薄弱の様にも見えたが時が経つにつれ嘲りよりその底知れなさに対する恐怖の方が勝ってきた。
彼は自分達を如何思っているのだろう。自分は妹を愛しいと思い、兄である彼にも一目置いている。妹も自分と彼を慕い、敬ってくれている。彼にとって自分達のそんな感情は鬱陶しいものでしか無いのだろうか、はたまた其れすらも如何でも良い事なのだろうか。
足先が赤い水溜りを叩き、その音で思考の海より帰還する。前を行く背中は相も変わらずゆったりと出口へ向かい此方に顔を向けることは無い。視線だけを動かすと床に転がっていた一つの骸と目が合った。その顔を大きく歪ませて息絶えたかなり高位の司祭らしき男、彼は一体何に恐怖を抱いたのだろう。突如訪れた己の死に対してか、同じ光神の信徒達が紙屑の様に切り払われてゆく様か、どんなに強く祈りを捧げようとも結局それは届かないという事を思い知ってか、或いは己の命を刈り取る者の、虚ろな奈落の奥底の様な瞳か。
――――どんなに思おうとも、決して届かない、か。
哀れみを籠めて苦笑する。それは転がる骸に向けたものか。それとも、
――――なぁ、
視線だけで語りかけても、彼は自分を見ない。
―――― 貴方にとって、私達は ――――
言えなかった言葉を舌の上で転がし、飲み込んだ。此方に振り向くことの無い背中から目を逸らしたかったけれど、其れをしてしまうと彼の姿が跡形も無く消えてしまいそうで其れも出来なかった。
BL要素入れたつもり無いけど書き上げたら何かサル→デスみたいになった。
うちのサル様は結構兄妹思いで苦労性。
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プロフィール
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柳也
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非公開
職業:
多分人類
趣味:
妄想とゲーム
自己紹介:
【此処の管理人の生態】
・画材を買い漁るのが最早生きがい
・青を筆頭に鮮やかな原色系の色が好き。宝石の色に憧れ中。
・見れる絵を目指してデッサンを模索中
【サイトの案内】
・メインはロマサガとミンサガ……の筈
・だが何より多いのは俺の駄目すぎる日常
・捏造だけのサイト
・嫁は旧ヘイト、婿は赤魔さん
・最早うちのグレイは止まらない
・ガラハドへの差し入れは養毛剤で
・FVロマサガ2のロナルドに萌えた
・ルドラの関西弁市長が好きなのは俺だけだろう
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