かくのごとく愛を語り

冥府の名も無き人々の他愛も無い話。


お題は「実験的お題の箱庭。」様よりお借りしました。


※オリキャラ注意



ご覧になる方は「続きを読む」よりどうぞ。

 

 

 

　始まりは冥府内戦士の間、休憩中に発せられたある一人の戦士の何気ない一言からだった。

「なぁ、お前何で此処に居るんだ？」

　え、と話を降られた戦士が怪訝そうに聞き返す。ややあって質問の意を理解した壮年に差し掛かった戦士は、質問に対する返答ではなく別の問いを話しかけた若い戦士に投げかける。

「何故いきなりそんな話をする？」

「いいじゃん、暇だし。お前も此処に居ることを望んだって事は、何か惹かれるモンが有ったって事だろ？」

　にへっと笑って若い戦士が返答を促す。答えない限り解放されないだろうと察した壮年の戦士は溜息混じりに渋々答える。

「切っ掛けは此処で己の技量を磨き続けたいと思った事だな」

「うわ出たよ戦闘馬鹿」

「喧しい本物の馬鹿」

　若い戦士の茶化し言葉に壮年の戦士の機嫌が凍結湖の気温並みに一気に急下降する。ジト目で睨みつけてくる壮年の戦士をジョークジョークとひらひらと手を振って宥め、若い戦士は話を続ける。

「でもまぁ切っ掛けなんてそんなもんか。俺だってお前と大して理由変わらんねぇし、法官の奴等なんて皆が皆「此処なら時間を気にする事無く幾等でも本を読み法を作ることが出来るから」だもんなー」

　けらけらと笑って背伸びする。壮年の戦士はやれやれと気紛れな同僚に頭を痛めつつ、予め用意していた水を呷ってポツリと洩らす。

「しかし、よくよく考えてみれば我々は主に恵まれたな」

「そうそう、俺もそう思った！！生きてた頃は主があんな方だなんて夢にも思わなかったよな！！」

　膝を叩いて同意した若い戦士に、然りと頷いて壮年の戦士は遠い目をする。

「三邪神の長兄、死者達の王。見る者の生命を一瞬で刈り取りその身に血は一滴も流れぬ冷酷なる恐怖の配達人」

「それが蓋を開けてみば、温厚で大らかで懐が広くって理想的な人の上、三食おやつ付き修行し放題と何処までも良い待遇が待ってたんだもんな、全く本当に良い詐欺だぜ」

「一体何処の誰があのような出鱈目を言い出したのやら」

「あの適当光神じゃね？最近異界じゃあいつより主の方が人気あるらしいからその腹いせとか」

「それは十分に有り得るな」

　直接話した事は無いものの度々此処を訪れる如何見ても遊び人の極潰しにしか見えない神々の父のにやけ面を思い浮かべ、壮年の戦士は渋い顔をする。冥府でのかの光神の信仰度は地の底を突き破って煉獄に至るまでに低いのだ。

　ふと若い戦士が不適な笑みを浮かべ、自身有り気に壮年の戦士の顔を見る。

「俺、此処の奴等が主に従っている理由分かるぜ」

　そう自身満々に胸を張った若い戦士に負けず劣らずの笑みを浮かべ、壮年の戦士が言葉を返す。

「奇遇だな、拙者にもだ」

「じゃあ一緒に言ってみようぜ」

「良いだろう」

互いを指差しあい、異口同音で同時に、

 

 

 

「「放っとけないから」」

 

 

 

　一瞬の沈黙の後、二人一斉に笑う。静かな冥府に響く笑い声は、何処までも楽しげな響きで。

「そーなんだよなー、何か放っとけないんだよあの人！！」

「何処と無く危な気と言うか、保護欲を掻き立てられると言うか……」

「大法官もさ、法がどーのなんて気取ってるけど絶対同じ理由だぜ、秘蔵のスコッチ賭けても良い」

「拙者もそう思っているから賭けが成立せんな。ってお前そんなもの隠していたのか」

「あ、やべっ」

　腹を抱えて笑い転げていた若い戦士は、己の失言に気付き冷や汗を流す。壮年の戦士はにやりと意地悪く笑い右手を差し出して一言、

「今の発言を大法官に黙っていて欲しかったら口止め料」

「わーったよ、わーかーりーまーしーたーぁー！！お前にも飲ませてやるよ！！くそっ、余計な事言うんじゃなかった」

「自業自得だ大馬鹿者」

　冷たく言い捨てて立ち上がる。若い戦士も立ち上がり傍らに立て掛けておいた己の愛刀を担ぎ上げて背伸びした。

「さーて、休憩も終わったし頑張って修行するとしますかぁ！！」

「手合わせになら付き合ってやるぞ。お前の剣は荒削りで正確さが足らん、拙者が鍛え直してやる」

「おっさん、その言葉後悔するんじゃねぇぞ？」

　談笑しながら修行場へと向かい、笑いあう。

 

 

 

　冥府は今日も平和だ。

 

 

 

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冥府の名も無き方々の雑談。やっとSSと呼べるものを書けた気がする。
この二人は書いてて気に入ったのでまた登場させてみたい。