ひとりぼっち

あのネタの小説。

 

 

 

　アルツールの大通りの真ん中で、一人の男が佇んでいる。

　冷たい風が灰色の髪を揺らすのにも構わず、男はその手に持った剣をじっと見つめたまま動かない。冴えた刀身は赤くぬるりとした液体を纏い、男の灰色の瞳を冷たく映している。その氷のように冷えきった刀身は、ほんのりと冷気を孕み刀身をなぞった指が少し痛む。

 

　男の他には誰も居ない。既に夕日すら落ち闇夜に変わりつつある空は月すら見えず、ただ吐く息の白さだけが妙に現実味があった。

　やがて完全に闇の帳が落ち、辺りは真の闇夜と変わる。家々から漏れ出る明かりに目もくれず、男は歩き出した。

 

 

 

　男の持つ氷の剣から、ぽたぽたと深紅の雫が滴り落ちて地面に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てコラ」

　後ろからがっしりと肩を掴まれ、男が背後を振り返る。ひよこのようにふんわりとした蒲公英色の髪と深緑の瞳を持つローザリア人の男が腹を立てた様子で男の灰色の瞳を睨み付けた。

「通りで待ってろって言ったろうが！！何勝手に宿に帰ろうとしてんだ！！」

　もの凄い剣幕で怒鳴りつけてくる金髪の男に全く物怖じをせず、灰色の男も負けじと睨み返し怒りをぶつける。

「この寒い中いつまでも待ってられるか！！つーかお前布巾買ってくるだけで一体何時間掛かってんだこののろまひよこ頭！！！！」

「だれがのろまひよこ頭だこのねずみ色男！！仕方ないだろ道具屋が定休日でわざわざクリスタルシティから来たキャラバンの馬車待ってやっと買ったんだから！！！！」

「大体元はと言えばお前がアイスソード買った後ガキみたいにはしゃいで振り回して顔にぶつけて鼻血ブーしたのが悪いんだろ！！新しい玩具買ってもらった子供じゃあるまいし成人とっくに過ぎてなにやってんだこの刃物マニア！！！！」

「刃物マニアじゃない、剣コレクターだ！！……まぁそれに関しては確かに俺が悪かったよ！！悪いなこの冬真っ只中に何時間も待たせちまってよ！！！！」

「もう怒ってねーよ！！！！」

「じゃあ何で喧嘩腰なんだよ！！」

「止まんねーんだよ！！！！」

「そうかよ！！！！」

　ひときしり怒鳴りあった後、どちらからともなく喧嘩は止み、二人同時に深い溜息を吐いて肩を落とす。

「……酒場行って飲むか」

「そうだな」

　金髪の男の言葉に、灰色の男が疲れた様子で返す。そのまま二人並んで酒場へ向かう道すがら、灰色の男が思いついたように呟いた。

「これってアイスソード買ったおめでとう会？それとも仲直り会？もしくは寒くて冷えたから酒飲んで暖まろう会？どれなんだろうな」

「最後のは会なのか？」

「知らね」

　くくく、と悪ガキめいた忍び笑いを洩らし、酒場の扉に手を掛ける。扉を開けると柔らかい光と楽しげな嬌声と暖かな空気が二人を包んだ。

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一人でも騙された人が居たなら本望です。